第2回:板谷直樹+西野正和対談(後編)〜ピックアップの位置でも音が変わる

ベース大好き! by RandoM編集部 2013年7月26日

板谷直樹氏と西野正和氏の対談後編では、より深くサウンドとベースについて突っ込んでいただきました。それにしても、軽井沢のマクドナルドは東京より美味しいなんて驚きです。

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板谷直樹氏(L)、西野正和氏(R)

ベーシストとオーディオメーカーの主宰者という立場の違いを超えて、ベースへの愛を惜しみなく表明し合う対談の後編。70年代ジャズベース、オーディオアクセサリー、ベストの1枚、塗装……と、話題はどこまでも広がり、話は尽きません。早速、耳を傾けてみましょう。

オールタイムベストは?

板谷 西野さんの著書『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』の話もしたいのですが、西野さんが聴いてきた音楽は、僕ともかぶるところが結構ありました。フュージョン系の作品は僕も聴いてきたし、西野さんはベースもやられるということだったので、「なるほどな」って。

西野 板谷さんの『ベーシスト 究極の選択60』にも名前が出ていた、アンソニー・ジャクソンやマーカス・ミラーと対談していますからね。大好きな人達に会いに行って、音楽愛にあふれた本を作ろうと考えたのがきっかけなんですけど、たまたまアンソニーとマーカスという2大ベーシストがそろってしまった。人選は、それほど狙ったわけではないんですけど……。

板谷 それであの2人というのは、すごいですよね。

西野 コレクター的な要素が強いディスクガイドはあんまり面白くないなと思っていて、ミュージシャンがオススメする音楽を教えてもらって、それをオーディオ的にも聴いてみる。そういう企画だったんですけど、ルーサー・ヴァンドロスの「A House Is Not A Home」でアンソニーがチューニングを下げて弾いていたというのを聞けたのは、うれしかったですね。低い、沈み込んだようなサウンドなんですけど、弦がゆるゆるだったんだっていう(笑)。それはやっぱり、本人に聞かないと分からないことですから。

板谷 僕は、今剛さんとの対談も面白かったですね。今さんの音楽の聴き方とかが分かって、親近感がわきました。

西野 カントリー系の作品を多く挙げられていたのも、興味深かったです。あの本では僕の趣味はあんまり入っていなくて、登場しているミュージシャンやエンジニアさんのCD棚を覗きに行こうよ! という企画なんですよね。

板谷 では逆に、西野さんのベストアルバムって何ですか?

西野 1枚は選びづらいですね……。

板谷 そうでしょうね。僕もそういう質問をされたら困ります(笑)。

西野 『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』ではカバーに『Never Too Much』が写っていますが、あれは自分で初めて買った洋楽のアルバムなんですよ。そういう意味では、自分の中ではエポックな作品です。それまでは食わず嫌いなところがあって邦楽ばっかり聴いていたんですけど、洋楽が自分の中で解禁されたという……。そこから、世界中に良い音楽がたくさんあることに気づいて、いっぱい買い始めることになりました。板谷さんは1枚を選べますか?

板谷 いっぱいあって難しいです(笑)。でも、高校の頃に聴いてびっくりしたのは、ハイラム・ブロックの『From All Sides』っていうアルバムで。1曲目の「Window Shoppin’」はベースがウィル・リーなんですけど、あの曲を友達に聴かされた時には、「なんだこれは!」とビックリしました。

西野 ちょうど先月、ハイラム・ブロックを全部聴き直しましたよ。やっぱりウィル・リーはかっこいいですよね!

板谷 「Window Shoppin’」を聴いて、「どうやったら、あの音が出るんだろう?」って思っていました。自分の楽器では、出ないんですよ……。で、「どうやったら出るのかな〜?」って考えていたら、結論はサドウスキーだった(笑)。人が使っているのを聴いて、すごく元気な音で、抜けが違うなって思って。それで東京中のサドウスキーを弾いて回って、「これだ!」っていうものを見つけたんです。僕は結構、楽器を買っては売りを繰り返しているんですけど、その1本だけはいまだに残っていますね。

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70年代のフェンダージャズベースの音

西野 僕は、どちらかと言うとブロックポジション系の音の方が好きなんですよね。ピックアップの位置が違うんですけど……。

板谷 リアピックアップがブリッジ寄りなんでしたっけ?

西野 そうなんです。ジャズベースだと見たらすぐ分かるんですけど、あっち系が好きなんですよね。その筆頭が、マーカスです。

板谷 70年代のフェンダージャズベースの音ですね。

西野 僕は“70年代フェンダーの音を広めよう会”の、自称会長ですから(笑)。でもブロックポジション系ベースは少ないですね。突然世の中に現れた60年代ジャズベースの形は、“神様が作ったデザイン”とでも言うべき完成度を感じます。何か使命を持って生まれてきたプロダクトなのではないか、と思えて仕方がありません。

板谷 誕生してからずっと形が変わっていないのは、確かに驚きですよね。

西野 でも神様は、もう1本作ってしまった。きっと「ちょっと飽きたなぁ」と思ったんでしょう(笑)。マーカス以外で弾いている人が少ないのですが、『This Is It』のベーシストは久々の70年代使いでした。

板谷 アレックス・アルは、素晴らしいですよね。

西野 あれは聴いた瞬間に、「よし、ブロックポジション!」という音でした。ああいうベースの音が大好きです。でも、世の中の95%くらいは60年代スタイルですよね。もうちょっと下品なサウンドが欲しいのに(笑)。

板谷 でも、ピックアップの位置でもそれだけ音が変わるということで……。

西野 ウィル・リーは60年代スタイルですから、板谷さんがそういうベースを選ばれているのは正しいと思います。

板谷 実は、それはあんまり頭に無かったですけどね。

西野 これは最初の分かれ道なので、自然に選ばれたんでしょう。そして、60年代スタイルを選んでいる人のフェイバリットベーシストは、ウィル・リーとかジャコ・パストリアス、日本では伊藤広規さん、そういう名前がどんどん挙がってくるんです。でもマーカスが好きだと言っているのに60年代スタイルを選んでいる人がいると、会長としては「こっちに来ない?」と誘ってみたくなる(笑)。「ブロックポジションを弾いてみたら? しっくり来るかもよ」って。

UNDERDEER
対談会場となったUNDER DEER Loungeは、DJイベントから結婚式の二次会まで、幅広いシーンで活用できるスペース。バンド機材・ステージ・DJブース・映像設備・控室等、充実した設備が売り。イタリアンをベースに多様なメニューに対応可能なキッチンもある。ステージ脇の水槽も印象的だ。

  • 住所 東京都渋谷区神南1-3-4 神南ビルB1
  • Tel 03-5728-2655
  • Fax 03-5728-2656
  • Web http://www.under-dl.jp

その土地固有のサウンド

西野 実は今日は、ちょっと実験をしていただこうと思って、こんなものを持ってきました。DRESS-CUBICというアクセサリーなんですが……。

板谷 これは、ケーブルの下に敷くやつですね。

西野 ええ。では、まずはDRESS-CUBIC無しで弾いてみてください。

板谷 アンプとか綺麗に拭いておかないで大丈夫ですか? 

西野 大丈夫です(笑)。僕が一番気になるのは、ケーブルをぎゅっとしばってある場合ですね。レコーディングで縛ってあったら、「ちょっとこれ、取っていいですか?」って確実に言いますね。ケーブルに何かを巻いたり貼ったりしても、そう簡単に音質が変わるものではありません。ですが、万が一の確率でも音質にとってマイナスに作用するのは困ります。僕は欲張りの心配性なんです。少しでも音質劣化につながる可能性があるなら、事前に排除しておきたいというのが理由です。

板谷 では、準備ができたので弾いてみますね。

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板谷氏のベースはMIke Lull V5(2011年製)。2012年初頭より、使い始めたとのこと

西野 これは、5弦だけ違うものを張っているんですか?

板谷 そうですね。メーカーは同じですが、Low-Bだけちょっと細くなっています。レギュラーのLow-Bは130というゲージですが、これはミディアムライトで125なんですね。押さえやすいし、130より音が濁らないように感じるのでこの組み合わせが気に入ってます。(試奏する)

西野 では、DRESS-CUBICを敷いてみましょうか。これはオーディオのマーケットで販売しているアクセサリーで、ケーブル用のインシュレーターです。こんなものがケーブルの下に来たって、音が変わるわけが無いと普通は思いますよね? でも、実際はどうなのか。ちょっと試していただけますか?

板谷 (3音ほど試奏する)これは、なんで変わるんですか?

西野 もう分かりました? さすがですね。

板谷 いや、それは分かりますよ。音が澄みますね。

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板谷氏のケーブルの下にDRESS-CUBICを敷く

西野 実はこれの狙いは、60〜70年代のビンテージシミュレーターなんです。もちろん電池を使わないで音を変えるわけで、パッシブイコライザーみたいな感じですね。

板谷 じゃあ、どっちかと言えば澄むとは逆の効果ですか?

西野 澄むというのも分かります。ただ、僕らの狙いを分かりやすく言えば“真空管っぽく”とか、そういう感じになります。ハイファイ志向かビンテージ志向かで言えば、ビンテージ志向なんですね。

板谷 これは、ちょっと不思議ですね。

西野 『ベーシスト 究極の選択60』でケーブルのトピックが出ていましたが、本に書かれていたように、ケーブルの向きで抵抗値が変わるとか、そういうことはありません。ただ、流れるのは音楽だというところに僕らは目を付けているんです。軽井沢で暮らしながら、鳥の声を聴いてスピーカーを考えたり……。そういうことばっかりしているんです。そのために、軽井沢に移り住んだんですけどね。

板谷 僕は北海道出身ですけど、それは分かりますね。北海道のサウンドと、東京のサウンドは違いますから。だから、軽井沢も絶対違うだろうなと思います。

西野 軽井沢は、普通に音が良いんですよ。お店で「このBGM、良い音だな。何で鳴らしているんだ?」って思って見たら、ラジカセだったりしますから。ビックリしちゃうんですけど。でも東京でも仕事をしないといけないし、日本の音楽制作の現場はほとんどが東京なわけじゃないですか? だから東京で良い音を鳴らさないといけないので、東京にも事務所を用意して(編注:REQST東京事務所は2013年に新規オープン。ただし非公開となっています)、そこも研究しつつという感じです。

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生産者の顔が見える安心感

西野 『ベーシスト 究極の選択60』で板谷さんが書かれていた、渋谷に住む理由が面白かったですね。

板谷 やっぱり便利なところにいたいなというのと、音楽の香りがするところにいたいというのがあります。あと、僕の先祖が漁師なんですね。で、漁師は海沿いに住むわけです。じゃあなんで漁師が海沿いに住むかと言えば、それは海が仕事場だからですよね。そこで僕の場合、ライブ会場や事務所やレコード会社が密集している場所にいるべきじゃないか、ということですね。

西野 僕らも東京事務所を探す際に、今回は渋谷か青山の2択でしたね。前の事務所は文京区の白山だったんですけど、今は白山という感じではない。

板谷 要は野菜をどこで作るのか、ということですよね。だから、西野さんの考え方は非常にナチュラルだと思います。実は最近ベースの色を変えたんですけど、千葉の成田方面にあるカラーリングワークスさんに頼んだんですね。もともとクルマのペイントをしていたところで、いまは楽器の塗装にシフトしている。そこでサンバーストから黄色に塗り替えてもらいました。

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西野 それは興味深いですね。その色はフェラーリ系ですか?

板谷 イメージ的にはランボルギーニなんですよ。

西野 ああ、ミウラとかの感じですよね。

板谷 そうなんです(笑)。

西野 サンバーストとイエローでは、当然音が変わるでしょうね。

板谷 ポリから極薄のラッカーにしたんですが、木がよく響いて生々しい感じになりました。

西野 そういう塗装みたいな作業をだれにお願いするかは、とても大事ですよね。野菜には作った人の写真が付いていたりしますけど、それと同じようなことだと思います。

板谷 ちゃんと生産者の顔が見えて、責任を持っているということですよね。沖縄には、ストラップだけ作っている革職人がいたりします。で、ブログを読むと「今日は息子と海で……」なんて書いてあって、そういうのが良いなって思います。

西野 素晴らしいですね。REQSTが開発を軽井沢で行なっているのは、ちょっとそういうところもあります。軽井沢に移転して驚いたのですが、マクドナルドが明らかに東京とは味が違うんです。何が違うのかを考えたんですけど、焼くというのは酸素と関係があるわけじゃないですか? だから、空気の違いは絶対に出てくる。もちろん、野菜を洗う水の違いもあるでしょう。そういうことを真剣に考えて開発しているのが、REQSTという会社なんです。でも、水と空気が良ければOKかと言えば、そんなことはない。軽井沢のパン屋さんは確かに美味しいけれど、青山にも美味しいパン屋さんがありますから。だから水と空気だけでは語れないし、職人の腕というものが大事になってくる。

板谷 あの娘が炊いたご飯は美味しいとか、そういうのはありますよね。でも、それは単に惚れてるだけかな?(笑)。

西野 いえいえ。分かりやすい話で言えば、「コンビニのおにぎりになら、あなたが握ったおにぎりでも勝てるでしょう」ということだと思います。

板谷 やっぱり人に握ってもらった方が美味いですよね。

西野 そこはすごく分かりやすいのに、なぜか楽器や機材になるとスペックや素材の話になってしまう。この仕事をしているとついつい見失いがちですが、いつも音楽愛を忘れないように心掛けています。

(この項終了)

板谷 直樹(いたや なおき)

札幌市出身 バークリー音楽大学卒。R&B、AOR、ポップに親しみ15歳よりベースをはじめ、当時からセッション系ミュージシャンに憧れて様々なジャンルを吸収しようと試みた。札幌での活動を経て渡米し、本場のジャズやラテンミュージックに触れ多大な影響を受けている。「最先端のグルーヴとメロディックなソロ」を追求し、アーティストのライブやレコーディングも多数。著書『ベース・ラインで迷わない本』『一生使えるベース基礎トレ本』『一生使えるベース基礎トレ本 スラップ強化編』『一生使えるアドリブ基礎トレ本 ベース編』『ベーシスト 究極の選択60』(すべて小社刊)

◎公式サイト→http://www.geocities.jp/nitaya623/

西野 正和(にしの まさかず)

株式会社レクスト代表取締役。オーディオアクセサリー“レゾナンス・チップ”で1998年に起業。スピーカー、DAコンバーター、ケーブルと拡充していった 製品ラインナップは、オーディオ愛好家だけでなくミュージシャンやエンジニアからも高い評価を得ている。また、CDソフト制作にも深く関わり、制作側と再 生側の両面より最高の音楽再現を追及する。楽器ケーブル唯一のエンドーサーは、アンソニー・ジャクソン氏。著書『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』『すぐ できる! 新・最高音質セッティング術』(すべて小社刊)
◎レクストWEBサイト⇒http://www.reqst.com

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