第1回:板谷直樹+西野正和対談(前編)〜自分磨きと上手さの関係

ベース大好き! by RandoM編集部 2013年7月19日

ベーシスト板谷直樹氏と、オーディオメーカーREQSTを主宰する西野正和氏の対談前編。あふれるベース愛を感じてください!

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板谷直樹氏(L)、西野正和氏(R)

『ベースラインで迷わない本』など、多数の書籍を著しているベーシストの板谷直樹氏。そして『すぐできる! 新・最高音質セッティング術』などの著書があり、オーディオメーカーのREQSTを主宰する西野正和氏。そんなお2人に共通なのは、ベースという楽器への愛。実は西野氏もベースを演奏し、REQSTではベース用のケーブルまで製作しているので、板谷氏とは話が合いそう……。そう考えたRandoM編集部では、西野氏と板谷氏に、ベースにまつわるお話をあれこれしていただきました。前後編の2回に分けて、対談をお送りいたします。

フィジカルな練習だけでは上手くなれない

——西野さんは“オーディオの人”でありつつ、偏愛と言っても良いほどベースを大好きだったりします。そのアンテナに引っかかったのが、板谷さんの近著『ベーシスト 究極の選択60』ということなのですが。

西野 ええ。『ベーシスト 究極の選択60』を読ませていただいて、とても面白かったです。自分が考えてもいなかった2択があったり、「この2択は当然こっちでしょう!」とか、トピックによっていろいろ考えるところはありましたが、最後まで読んで何を思ったかというと、「楽譜の載っていない教則本だな」ということ。バンドマンを目指している人、楽器の練習をしている人がこれを読んだら、確実に上手くなるだろう、と。というのは、いわゆるフィジカルな練習ってあるじゃないですか? でも、それだけをやっていてもなかなか上手くはなれないわけです。楽器に接する場合でも、問題意識を持って考えることが大事ですから。だから大げさに言えば、人間的な成長によって上手くなっていくという側面がある。そういう意味で『ベーシスト 究極の選択60』を読めば、「この2択は、自分だったらどうするかな?」という問題意識を持つことができる。それだけでも、随分深みとかが変わってくると思うんです。“自分はどうなんだ?”というのを突き詰められるので、自分磨きの本として価値がある。それで、板谷さんと対談をしてみたいなと思ったんですよね。すごく面白かったので、お話をしてみたい、と。

板谷 実は実家には、親父が読んでいたビジネス書とか自己啓発本がいっぱいありまして……。その影響で僕も、十代の半ばくらいからビジネス書ばっかり読んでいたんです(笑)。だから内容を音楽に置き換えて、人を応援するような本が書けたら良いなとは、ずっと思っていたんですよね。

西野 “自己啓発”みたいな部分はそれほど感じませんでしたが、2択の結論が両論併記だったのが面白いと思いました。板谷さん自身の答えがはっきり書いてあるのは、“アクティブかパッシブか”“弦をゆるめるかゆるめないか”くらいで、あとは読者が自分に適した答えを選択できるようになっている。副題にあるように、“2択が導く”わけですね。でも今回の読者層は、どのようなイメージで書かれたんですか?

板谷 この本に関しては、初心者向けに書いたつもりです。

西野 そうですよね。そこも素晴らしいと思いました。もしかしたら僕の本は10代の方が読まれたら難しく感じるかもしれないのですが、『ベーシスト 究極の選択60』は全然大丈夫でしょう。でも、それは内容が簡単だということではない。僕らが読んでいて物足りないかといえば、そういうわけではないですからね。世代的には、広く読める本だなと思いました。ちなみに、普段から若いアマチュアとは接しているのですか?

板谷 個人的に教える場合は、10代後半〜20代前半の生徒が多いですね。

西野 なるほど。そういう普段の経験が生きているんでしょうね。

板谷 あとは自分が若いころを思い出して、「こんなこと、あんなことを思っていたなぁ」って(笑)。

西野 自分磨きに気づき始めた年代でこの本を読めば、「海外留学という手段も、全然夢物語というわけではないんだな」とか、いろいろな選択肢を知ることができる。とても役立つと思うし、面白かったです。

UNDERDEER

対談会場となったUNDER DEER Loungeは、DJイベントから結婚式の二次会まで、幅広いシーンで活用できるスペース。バンド機材・ステージ・DJブース・映像設備・控室等、充実した設備が売り。イタリアンをベースに多様なメニューに対応可能なキッチンもある。ステージ脇の水槽も印象的だ。

  • 住所 東京都渋谷区神南1-3-4 神南ビルB1
  • Tel 03-5728-2655
  • Fax 03-5728-2656
  • Web http://www.under-dl.jp

芯に当たる感覚が分かれば、良い音が出る

西野 自分磨きということで言うと、プロの演奏を実際に生で経験することは、とても大事だと思います。もう、生の音からして全然違うわけですから。単純に言えばプロの音はデカいし、太い。そこに早く気づけば、プリアンプのローを上げるよりも、指のイコライザーを鍛えた方が良いことが分かる。実際に聴いたら、きっとビックリするはずです。僕もベース本体の音質チューニングをする場合に、ちょっと弾いてチェックをして、「プロだとこれの何割増しかな?」なんて想定しながらやっていきますから。

板谷 それに関しては、いろいろ思うところがあります。例えばクルマのエンジンって、みんな3,000回転くらいで街乗りをするんですね。でもおいしい部分って、4,000回転から上なんです。4,000回転から上がトルクがあってパワーバンドになっているんだけど、そこはあんまり使われないし、使い方も知らない。ただ、いわゆるプロで楽器の鳴らし方を知っている人は、いつもその領域で楽器を鳴らしてあげている。あとは野球とかゴルフでもそうなんですけど、軽く当ててもボールが“パーン!”って飛んでいくじゃないですか?

西野 そこですよね!

板谷 芯に当たる感覚。それが分かれば、そんなに力を入れないでも良い音は出る。

西野 音量は大きく感じるけど、別に力いっぱい弾いているわけではない。

板谷 そうなんです。

西野 見ていても、プロは全然力んでいないですし……。ゴルフや野球のジャストミートの感じが、楽器にも存在することに、早めに気づけると良いですね。そこを探しだそうとすることは、ステップアップの1つの方法だと思う。

板谷 僕はそういうところに、10代の後半くらいで入っていったんです。師匠みたいな人が、そういうことにうるさかったので……。「それじゃ違う」「それではダメだよ」ってダメ出しをされ、「これ聴け」「あれ聴け」と言われて、いろいろな音源を聴き比べて……。「どうやったらあの音が出るのかな?」って、自分でも録音してみて、聴き比べてみたりして。いま自分が出している音が少しでもそこに近づいていると信じて演っていますね(笑)。

西野 録音してデシベルを計っても、同じ音量かもしれないですしね。波形は、もしかしたら違うかもしれないけど……。弾く人のエナジーみたいなものの存在が、確実にあるんですよね。

板谷 それは分かります。

西野 そういうことに気づくと、すごく良いですよね。僕はそれができなかったから、裏方さんになったんですけど。

板谷 最近の若い子たちって、ベースにいろいろつなぐ傾向があるんですね。アクティブベースでプリアンプも入っている。しかも足元にもプリアンプがある。さらにベースアンプがあって……。そういう子たちに、“芯に当たる感覚”を体得してほしいですね。

西野 でも、僕にもそういう時期がありましたよ(笑)。“プリアンプは必須だ!”みたいなね。

板谷 演奏中に手元で音色を変えたい場合は、確かにプリアンプ内蔵なのは良いんですけどね。

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2人のファーストベースは?

西野 板谷さん自身は、パッシブ派なんですよね。

板谷 そうですね。しかも基本的にはケーブル1本で、アンプとの間には何も入れません。だから、すごくシンプルです。

西野 アンプ直、ということですね。

板谷 ええ。もう、ずっとこのスタイルで演奏しています。アクティブベースが怖いのは、電池が減っていくところですかね。

西野 電動髭剃りみたいに、青ライトが点いたらそろそろ……とかだったら良いんですけどね(笑)。

板谷 スルースイッチが付いていないベースがまた難しくて。小さな会場であれば、リハが終わったら外して、ステージに上ったときにケーブルを挿してスタンバれば良い。でも大きなコンサートだと、14時頃から準備して、サウンドチェックが夕方に終わり、開場から終演までずっと挿しっぱなしのことが多いんですね。もし外す場合は、PAさんに言っておかないといけない。そういうことがあって、僕はパッシブを使うようにしています。

西野 僕もパッシブの音は大好きで、青木智仁さんが弾いている角松敏生『AFTER 5 CLASH』なんかは本当に最高ですね。

板谷 確かに青木さんは、歌もののバックでは特に生き生きしていると思います。僕は『Tokyo Tower』が好きですね。

西野 当時の青木さんは77年のパッシブでブリブリ弾いていて、若々しい。若々しくて「弾き過ぎじゃん!」っていうくらいの時期が一番好きですね。そしてあのころのベースサウンド……山下達郎『FOR YOU』での伊藤広規さんもそうですけど、ああいう音になるベースがどこかにないかと思って、僕はずっと探していたんです。でも、それは腕だったということで(笑)。板谷さんのファーストベースは何でした?

板谷 中学の時に買った、アリアプロ2の白いベースでした。

西野 指板まで白いタイプですか?

板谷 指板は普通でしたけど(笑)、ジャズベスタイルではなくて、ハムバッカーが2つ付いているようなものでした。

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西野 僕はもともとドラムをやっていたんですけど、ある日マーカス・ミラーを生で見てしまって、「なんてかっこいいんだ!」とショックを受けてしまった。それで、ドラムの勉強にもなるからベースを触ってみようと思ったのが、ベースを弾き始めたきっかけです。だから、まずはナチュラルメイプルありきで(笑)。最初は自分でドリルを使って穴を開けてTCTを入れたりしたんですけど、「これ、全然入らないよ!」なんていう感じでしたね(笑)。

板谷 そのころから、楽器をカスタマイズしていたわけですね。

西野 弾けもしないのにバダスブリッジでしたから、変わっていたんだとは思います。

板谷 やっぱり、楽器をいじる方が好きだったんですかね?

西野 言われてみると、そうかもしれません。あと若い時は、好きな音のベースを作りたくてベースの工房に出入りして、何本もオーダーしていました。そこから、音楽や楽器の音をきちんと思い通りに鳴らしたくてなって、オーディオの方へ移行していった。そうしたら、思いがけずオーディオが仕事になっていったんですね。そしてオーディオの仕事をしている内に、オーディオファンの方々に加えて、レコーディングエンジニアさんもREQST製品を好んでくれるようになった。それで、音楽制作とリスニング両方のお手伝いができているわけです。

板谷 では楽器用のケーブルを作るようになったのは、最近なんですね。周りのベーシストからは、REQSTケーブルの評判を結構耳にしていますけど。

西野 本格的に楽器のことを考え始めたのは、アンソニー・ジャクソンがケーブルを評価して使い始めてくれてからです。その辺からまた楽器の人と仲良くなり始めて、オーディオで培った技術をフィードバックして、楽器のチューニングみたいなこともここ数年やり始めているんです。

板谷 そういう流れを伺うと、とても面白いですね。REQSTのルーツについてもっと聞いてみたいです。

(次回は、板谷直樹+西野正和対談 後編をお送りします)

板谷 直樹(いたや なおき)

札幌市出身 バークリー音楽大学卒。R&B、AOR、ポップに親しみ15歳よりベースをはじめ、当時からセッション系ミュージシャンに憧れて様々なジャンルを吸収しようと試みた。札幌での活動を経て渡米し、本場のジャズやラテンミュージックに触れ多大な影響を受けている。「最先端のグルーヴとメロディックなソロ」を追求し、アーティストのライブやレコーディングも多数。著書『ベース・ラインで迷わない本』『一生使えるベース基礎トレ本』『一生使えるベース基礎トレ本 スラップ強化編』『一生使えるアドリブ基礎トレ本 ベース編』『ベーシスト 究極の選択60』(すべて小社刊)
◎公式サイト→http://www.geocities.jp/nitaya623/

西野 正和(にしの まさかず)

株式会社レクスト代表取締役。オーディオアクセサリー“レゾナンス・チップ”で1998年に起業。スピーカー、DAコンバーター、ケーブルと拡充していった製品ラインナップは、オーディオ愛好家だけでなくミュージシャンやエンジニアからも高い評価を得ている。また、CDソフト制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。楽器ケーブル唯一のエンドーサーは、アンソニー・ジャクソン氏。著書『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』『すぐできる! 新・最高音質セッティング術』(すべて小社刊)
◎レクストWEBサイト⇒http://www.reqst.com

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