第28回:ベーシストにお薦めの映画紹介vol.23 『ゴースト・ドッグ』の巻

ベース大好き! by 板谷直樹 2015年7月16日

ベーシスト/ミュージシャンの視点から、板谷直樹さんがさまざまな映画を紹介していくこの連載。今回は、ジョン・ルーリーやトム・ウェイツ、イギー・ポップなどのミュージシャンを起用することでも知られる、“オフビート感覚”あふれるあの監督の作品が取り上げられています。『ブロークン・フラワーズ』でエチオピアン・ジャズをいち早く紹介した、音楽愛あふれるジャームッシュのあの作品では、なんとベースが……。

「武士道と云ふは、死ぬ事と見付けたり」。皆さんはこの言葉をご存じでしょうか? これは、江戸時代に書かれた『葉隠(はがくれ)』という、武士道の精神や哲学を説いた書物の有名な一文なんですね。今回はこの『葉隠』が随所に登場する、武士道精神を貫く殺し屋を描いた『ゴースト・ドッグ』(1999年/アメリカ、ドイツ、フランス、日本の合作)を紹介しましょう。

ジャームッシュが描く武士道を貫く殺し屋の映画

映画の冒頭のシーンは、先に紹介した葉隠の一文を黙読する主人公ゴースト・ドック(フォレスト・ウィテカー)のセリフで始まります。どこかのビルの屋上にある、鳩を飼っている小屋が彼の根城。夜になり殺し屋として請け負った仕事を遂行すべく出かける彼ですが、ずっとセリフなしでまた葉隠の文章がつぶやかれる……、というように独特の調子で映画は進んでいきます。

派手なアクションは無いけれど、日本の古い武士の精神を外国の映画によって知るというのは、何か感慨深いものがありますね。『葉隠』のつぶやきの中で特に印象に残ったものに「大事には心軽く対処すべし。小事には心重く対処すべし」というのがありました。非常に哲学的なメッセージです。

主人公ゴースト・ドッグは殺し屋だけれども、平和のシンボル=伝書鳩を飼っているという設定も面白いです。公園のベンチで座っていても、彼の周りに鳩がいるシーンはちょっとシュールでニヤリとさせられます。友達がいなく誰ともしゃべらないと思われている主人公ですが、公園で知り合う少女、そして互いに言葉の通じないアイスクリーム屋のレイモン(互いに親友と呼んでいる)との交流も描かれ、作品全体に漂うハードボイルドな質感をうまく中和していると言えますね。

ゴースト・ドッグを演じるフォレスト・ウィテカーは『プラトーン』『バード』『スモーク』などで高評価を得、2006年には『ラストキング・オブ・スコットランド』でアカデミー賞主演男優賞やゴールデングローブ賞主演男優賞などに輝いた実力派。大きな体で一見こわい人なのかなと思いきや、たれ目で優しさがにじみ出ているキャラクターは『プラトーン』の頃から気になっていました。

監督はジム・ジャームッシュ。ドイツ、チェコ、アイルランドの血を引くアメリカ人で、いわゆるハリウッド的な作品は撮らず、どこかヨーロッパ的で芸術とユーモアが絡んだ独特の世界観を見せてくれる監督です。『ナイト・オン・ザ・プラネット』『コーヒー&シガレッツ』なども本作と併せてチェックしてみると、彼の描きたいものやスタンスが見えてくるのではないでしょうか。

全編を覆う低音を強調しないRZAのトラック

ジャームッシュの映画は音楽もいいんですよ。本作はヒップホップグループ、ウータン・クランのリーダーRZA(レザ)が担当していて、中毒性のあるダークなブレイクビーツが作品全編に挿入されています。

特徴的なのは、ほとんどすべての曲でベースがあまり目立っていないということ(ベース無しの曲もある)。低音は強調されることが無く、中心になるのはドラムとその上で鳴る短いメロディの反復、調性と関係無い音がコラージュ的に貼られているという手法です。ヒップホップにベースは必要無いのか? ベーシストからすると「え?」となりそうですが、こうゆう聴かせ方もあるんだなーと勉強になりますね。

この作品以降『キル・ビル』シリーズや『アメリカン・ギャング・スター』などいくつかの映画音楽を手がけているので、それらもぜひ聴いてみるといいでしょう。また、本人はゴースト・ドッグと通りですれ違いざまに言葉を交わすチョイ役でゲスト出演もしているので、そのシーンも要チェックの1本です。

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板谷直樹(いたや なおき)

板谷直樹

札幌市出身 バークリー音楽大学卒。R&B、AOR、ポップに親しみ15歳よりベースをはじめ、当時からセッション系ミュージシャンに憧れて様々なジャンルを吸収しようと試みた。札幌での活動を経て渡米し、本場のジャズやラテンミュージックに触れ多大な影響を受けている。「最先端のグルーヴとメロディックなソロ」を追求し、アーティストのライブやレコーディングも多数。著書『ベース・ラインで迷わない本』『一生使えるベース基礎トレ本』『一生使えるベース基礎トレ本 スラップ強化編』『一生使えるアドリブ基礎トレ本 ベース編』『ベーシスト 究極の選択60』(すべて小社刊)



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