第27回:ベーシストにお薦めの映画紹介vol.22 『ワイルド・マン・ブルース』の巻

ベース大好き! by 板谷直樹 2015年6月19日

板谷直樹さんがベーシスト/音楽家の視点で映画を紹介していくこの連載。今回は、意外なドキュメンタリーが登場です。ウディ・アレンって、楽器を弾くんですねぇ。恥ずかしながら知りませんでした!

巷で噂の映画『セッション』を観てきました。完璧主義の鬼教授と主奏者の座を狙う新入生ドラマーの対決のお話。自分が怒られているような錯覚になり、最後まで緊張が抜けなかったですよ……。音楽をやっている人から見たらいろいろ突っ込みどころがあるかもしれないけれど、そこはあくまで映画ですからね~。二人の駆け引きと対決の姿、男と男の意地の戦いがテーマなので、音楽人でなくとも十分楽しめると思いますよ。僕はそんな感想を持ちました。

で、話変わって今回紹介する作品はフィクションではありません。正真正銘のドキュメンタリー映画で、ウディ・アレンがクラリネット奏者としてヨーロッパをツアーする模様を追いかけた『ワイルド・マン・ブルース』(1997年/アメリカ作品)です。

アレンの偏屈さを淡々と捉えるカメラ

ウディ・アレンは脚本、監督、出演の三役をこなすことで有名で、代表作に『アニー・ホール』や『マンハッタン』『ハンナとその姉妹』などが挙げられます。また、アカデミー賞にノミネートされた数も史上最多の人物なんですね。

そんな彼ですがクラリネットの演奏もし、毎週ニューヨークのパブで演奏するほどの腕を持っているとのこと。それは全然知らなかった……、というわけで興味深々で観てみました。

冒頭登場するのは空を飛ぶプライベート・ジェット機。乗っているのはウディとウディの妹(恐らくマネージャ的存在)と関係者の女性、ウディの彼女のスン=イー・プレヴィンの4人、そしてウディに嫌われている犬が1匹。そして犬がなぜ嫌いかを説明し「静かにしないと眠れない」と言うウディ。翌朝機内での朝食では「パンに犬を近づけるな」「朝の4時半には食べれない」などなど、子供みたいにわがまま言いたい放題です。う〜ん、ツアー中ずっとこんな感じなのか、ちょっと心配になってきました(汗)。

間もなくパリに着き早速演奏がはじまるかと思いきや、1泊してから最初の演奏地、スペインの首都マドリッドへと向かいました。その理由は「ニューヨーク以外で唯一いられる街がパリ」なので欧州に体を慣らすために1泊した、と。映画が始まって10分も経ちませんが彼の偏屈さ、神経質さだけは十分に伺い知れる内容です……。バンドメンバーとはマドリッドで落ち合っていますが、恐らく彼らは普通にエコノミークラスの飛行で来たんではないでしょうかね……。これは後々出てくるのですが、メンバーとは泊まるホテルや食事など、いろいろな違いがあるんですよね。まあウディ・アレンは映画界で成功している特別な人ですから仕方ないのですが、その辺りもカメラは淡々と捉えていると思います。

ヨーロッパ各地で古いジャズを演奏

ウディ・アレンのバンドが演奏するのはブルースやラグタイム、パレード・ミュージックといったニューオリンズ・スタイルの古いジャズです。メンバー曰く「ジャズの方言のような音楽」「今はどにも残っていないし、めったに聴けない」と。ウディ自身は「僕がそれほどのミュージシャンではない」と自認していて、ヨーロッパでの演奏に不安を持っていたようですが、どこの会場でもお客さんは大満足のようです。

さて、作品中には随所にウディと彼女のスン=イーだけのシーンがありますが、この二人の会話がとても面白いんですね。朝食で出てきたオムレツが固すぎて「ゴムみたい」「鉛のよう」と文句を言っていたかと思えば、昨夜の演奏の話になって彼女が「あなたが話すのはバンジョー奏者のエディだけ。もっとバンドメンバーにも話してあげて」と。「楽屋にみんないるのにおかしいわ」と意見するんですね。このスン=イーという人は非常に知的な女性で、時にはウディの方が子供のように見えてしまったりもするのです。

コンサートはスイスのジュネーヴ、オーストリアのウィーン、イタリアのヴェニス、フランスのパリ、またイタリアへ戻ってミラノとローマ、最後はイギリスのロンドンで幕を閉じますが、ヨーロッパでのウディ・アレンの(映画人としての)人気の高さ、宿泊するホテルの豪華さ(でもお湯が出ない)、コンサート会場の突然の停電など、さまざまなエピソードが収められています。その中でも「ここではニューヨークが恋しくて、ニューヨークへ帰るとヨーロッパが恋しくなる」「どこにいても今いる所に満足できない」という言葉が印象的でしたね。

映画のラストはニューヨークに戻ったウディが父母に会いに行く様子が収められています。ここでの会話がまたなんとも面白いんですが「親の顔を見てみたい」「見れてよかった」とは正にこのことかもしれません(笑)。ウディ・アレンという人物をたっぷり覗けた100分で、彼の創る映画ももっと観てみたいなと思いました。皆さんもぜひチェックしてみてください。

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板谷直樹(いたや なおき)

板谷直樹

札幌市出身 バークリー音楽大学卒。R&B、AOR、ポップに親しみ15歳よりベースをはじめ、当時からセッション系ミュージシャンに憧れて様々なジャンルを吸収しようと試みた。札幌での活動を経て渡米し、本場のジャズやラテンミュージックに触れ多大な影響を受けている。「最先端のグルーヴとメロディックなソロ」を追求し、アーティストのライブやレコーディングも多数。著書『ベース・ラインで迷わない本』『一生使えるベース基礎トレ本』『一生使えるベース基礎トレ本 スラップ強化編』『一生使えるアドリブ基礎トレ本 ベース編』『ベーシスト 究極の選択60』(すべて小社刊)



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