第21回:ベーシストにお薦めの映画紹介vol.16 『トランスポーター』の巻

ベース大好き! by 板谷直樹 2014年12月8日

ベーシストにオススメの映画を、板谷直樹さんが厳選してご紹介しているこの連載。今回は、スタンリー・クラークが映画音楽を担当した運び屋映画が登場です! スタンリー・クラークって、映像音楽作家の一面もあったんですねー!

ベーシストの中には、作曲や編曲にも優れた力を発揮する人がいます。これはベースという楽器の性質上、普段から音楽全体を見渡すように聴いていることが影響しているのでは、と言われることが多いようです。代表的なところではポール・マッカートニーやスティング、マーカス・ミラーやスティーヴ・スワローといった面々ですね。

そして今回紹介する『トランスポーター』(2002年、フランス・アメリカ合作)の音楽は、スタンリー・クラークが手がけているんですよ。どんな場面でどのような音楽をつけているのか興味深々ですね。ストーリーを楽しみながら、音楽も注意深く聴いてみましょう。

大人気の運び屋シリーズの1作目

『トランスポーター』は、ジェイソン・ステイサム扮する運び屋フランク・マーティンが、抜群の運転テクニックでいわく付きの依頼品を送り届ける人気アクション映画。フランクは特殊部隊の経験を持ち、火器の扱いや格闘技にも長けていて、数々の危険をかい潜りながら物語が進んで行いきます。

現在までにシリーズ3作が公開され、ジェイソン・ステイサムの出世作とも言われている作品ですね(現在4作目の製作が進んでいる模様、しかしステイサムは出演しない)。製作と脚本にリュック・ベッソンが関わっていることも話題になりました。また、監督のルイ・レテリエのデビュー作となっています。

この映画の面白さの1つに、主人公のキャラクターの核になっている運び屋としての鉄則があげ挙げられます。「契約は変更しない」「名前は聞かない」「依頼品を開けない」という3つで、これらを厳守することによって闇の組織からの信用と高額な報酬を得ているわけです。

が、ある依頼品を運んでいる途中パンクをしてしまい、修理のためにトランクを開
けると、何やら人間が入っていると思われるバッグが。不信感が募り中身を確認するとそこには手足を縛られた女性……。ルールを破って依頼品を開けたことを後悔するも、これが発端となって命を狙われるようになる、というストーリーです。

主役のジェイソン・ステイサムはもともと水泳飛び込みの選手でイギリス代表チームに所属。競技引退後はファッション・モデルに転向し、98年に『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』で俳優デビューしています。ネット上では「薄毛でもカッコイイ」なんて言われていますが(笑)、鍛え上げられた肉体と低くかすれた渋目の声に、女性だけでなく男性も間違いなくカッコイイ! と思ってしまうはず。

トランクから出てきた依頼品、ワケありの女性ライ・クワイ役は台湾出身のスー・チーが演じていますが、日本では烏龍茶のCMに出ていたこともあり、見たことがある人もいるでしょう。

組織のボス、適役のウォール・ストリート役にマット・シュルツ。この人の悪役っぷりもいいですね。他では『ワイルド・スピード』のヴィンス役でも出ていますし、俳優になる前はギタリストとして活動していたこともあるようです。

フランス人警部タルコーニ役のフランソワ・ベルレアンのとぼけた感じも、ジェイソン・ステイサムと対照的でいい味を出しています。

この映画のもう1つの主役と言ってもいい存在感を出しているのが、依頼品を運ぶために使う車、黒塗りの99年型BMW735でしょう。エンジンは暗号式で始動(冒頭のパスは732だったが、銀行の前では173に変わっている)、ボタンによって瞬時にナンバーが変えられ(3種類選択可)、ガレージには替えのプレートが多数隠されています。面白いところでは、銀行からのカーチェイスで、トレーラーからバックで降りるシーン。左のドアミラーを壊しますが、次のシーンでは右のドアミラーが無くなっています(演出ミスでしょうか?)。残念ながらこの車は冒頭から30分辺りで爆破されてしまうのですが、強烈な印象を残していますね。

 登場人物の心象を表現するプロフェッショナルな音楽

さて、音楽の方はベーシストのスタンリー・クラークなわけですが、ベース満載の音楽、というわけではありません。日本での紹介のされ方はジャズ・フュージョン系のテクニカル・ベーシストのイメージが先行していますが、80年代から映画、テレビ、アニメなど相当数の音楽を担当している作曲家でもあるのです。

本作の音楽の傾向としては、ストリングスのメロディが流れる中にリズミカルなパーカッションやドラム、単音ギターリフ、超重低音のベース、装飾的なさまざまなシンセ音などが組み合わさって、割とポップな印象を受けます。もちろんこの辺りは製作側との綿密な計算によって成り立っているのでしょうが、場面場面でより意味を持たせ緊張度を高めたり、登場人物の心象を表現するさまざまな手法は、さすが映像音楽作家のプロと言えます。ベーシストでも作曲に興味がある人は是非チェックしてみてください。

なお、オリジナル・サウンドトラックはスタンリー・クラークの曲は2曲のみで、他は劇中で挿入されるR&B、ヒップホップ系のアーティストの作品集的なものとなっている点にご注意を。

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譜例は車中で銀行強盗と契約を変えるか変えないかの問答シーンで、音楽がほぼベースとシンプルなパーカッションのみになる部分を指しています。早く車を発進させなければ捕まってしまう焦り、頭に銃を突きつけられている極限の緊張感。強盗と主人公のセリフを邪魔せずにこの状態をベースの1音でどのように表現しているのか?

皆さんが作曲家で、監督からこんなオーダーが来たらどうするでしょう? そんなことを想像してみるのも面白いですね。

新刊『ベースのフィルインを究める本』が発売されました。ベーシストの皆さんが知りたい「フィル」に特化した、今までに無い教則本となっています。こちらもぜひチェックしてみてくださいね!

板谷直樹(いたや なおき)

板谷直樹

札幌市出身 バークリー音楽大学卒。R&B、AOR、ポップに親しみ15歳よりベースをはじめ、当時からセッション系ミュージシャンに憧れて様々なジャンルを吸収しようと試みた。札幌での活動を経て渡米し、本場のジャズやラテンミュージックに触れ多大な影響を受けている。「最先端のグルーヴとメロディックなソロ」を追求し、アーティストのライブやレコーディングも多数。著書『ベース・ラインで迷わない本』『一生使えるベース基礎トレ本』『一生使えるベース基礎トレ本 スラップ強化編』『一生使えるアドリブ基礎トレ本 ベース編』『ベーシスト 究極の選択60』(すべて小社刊)



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