「音質や技術が高い=良い物」という価値観の図式は以前ほど重要でなくなっている – Fumitake Tamura(Bun)(前編)

ネットと音楽、いまとこれから by ドミニク・チェン 2013/05/28

ネット上で、CCライセンスやその他の方法で作品をオープンなかたちで公開している音楽家にインタビューしていく本連載。第1回はBunさんに話を聞きました。

Fumitake Tamura(Bun)

Fumitake Tamura(Bun)
Photo by AOKI takamasa

こんにちは。ドミニク・チェンと申します。僕は2004年頃からクリエイティブ・コモンズ(CC)という、作者が自分の作品を他者がどのように2次利用できるかを、自ら意思表示できるライセンスを発行する運動に関わってきました。CCライセンスは10年ほどで世界中の文章、画像、映像そして音楽やそのほかのデータといった、多種多様な作品に付けられるようになり、その数は少なく見積もっても約5億個と言われています。

その中でも特に音楽というジャンルは、CCライセンスが頻繁に使われています。インディーのネット・レーベルからメジャー・レコード・レーベルまで、無名有名を問わず多くの音楽家がCCライセンスを付けて楽曲を公開し、リミックスし合っています。僕自身、さまざまなCCのプロジェクトに関わる中、音楽のプロジェクトは常に活気があるという印象を持っています。

この連載ではCCライセンスやその他の方法で作品をオープンなかたちで公開している現代の音楽家に、彼らの活動とネットの関係についてを中心にインタビューしていきます。彼らがインターネットというコミュニケーションのインフラをどのように捉えて活用しているのかを聞くことで、今後の音楽のオープン化の可能性や問題点を浮き彫りにし、読者のみなさんがどうネットを使って音楽をしていくのかを考えるヒントになればと思っています。

今回はヒップホップの洗礼を浴びながら東京芸大で現代音楽を学び、ヒップホップのプロデューサーとして活動し、現在は特定のジャンルに分類できない音楽活動を精力的に行っているFumitake Tamura(Bun)さんに考えを伺いました。

 

Q1. この10年間、ネットとコンピュータの技術が世界に浸透してきた中で、Bunさん自身の音楽制作で大きな影響や変化を与えたものは何ですか?

Bun 現在僕は、オークランド、ロス、ニューヨーク、香港、ベルリン、ロンドン、東京、大阪、各地のアーティストと作業をしていますが、一昔前のネットがなかった時代に共同作業をするときの移動コストを考えると、果たして一生分の時間をかけてもこれだけの作業ができただろうか? と感じています。まさに今、世界各国のアーティストと個々で繋がり、これだけスピーディに作品を作り、それらを発表できる時代というのは、進化を感じられますし素晴らしいと思います。
それがアウトプットできる環境もインターネット、コンピュータの発展なくして語れません。メロンに生ハムを乗せたら美味しかったように、新しい組み合わせや創作がローコストで世界中で行われているのでしょう。
その中で、「音質や技術が高い=良い物」という価値観の図式は以前ほど重要でなくなっているようにも感じます。音楽がデータになり、価値がフラットになったことで、より突出した個性が感じられるものに僕自身も魅力を感じるようになりました。

昨年12月のCCのイベントでは、CCライセンスが付加された物のみを利用して曲を制作しましたが、こちらもさまざまな意味で貴重な体験でした。僕はCCライセンス付の作品を使うということを純粋に制作上の制約としてとらえていましたが、そこに実に多様な素材の山を発見しました。
主に使ったサイトは http://www.freesound.org/ です。ここから5つほど素材を選びました。CCライセンスの素材だからといって、制作に特に支障は感じませんでしたし、ドラムの単音から今回使用したイルカの声まで色々あるので選ぶのに困るくらいでした。やかんが湧いた時の音やお菓子を袋から出す音など、生活感のあるおもしろい音もありますね。
市販のサンプルCDのように加工された物でなく、マイクから録っただけというような生々しい雰囲気がある物も多く、逆にそこが良いと感じています。生々しいということは、プライベートなサウンドとも言えますね。写真に例えるとスナップ写真のような感じです。
僕は、このようなCCライセンスの素材が集められているサイトを、ネット上のsound bankのような物と感じています。

Q2. 現在、日本でも違法ダウンロードの刑事罰化や、TPP、著作権違反の非親告罪化など、作品の自由な2次利用に対して厳しくなりそうな動きが加速しています。Bunさんはこのような動きがどのように音楽家、そして音楽文化に影響を与えると考えていますか?

Bun 僕のような、サンプリングも音楽作品の要素として取り入れている者にとって、著作権というのは常にグレーゾーンです。
作品を世の中に出すという行為が社会活動と同義であれば、意識して改善しなければいけないのかもしれません。
ただ、著作権違反の非親告罪化が実現したとして、音楽家がそのことばかりにとらわれて、新しい作品が世に出づらくなるのであれば、それはとてもつまらないと感じます。
僕自身の考えとしては、個人の創造性の出発点は、法や社会の外側にある物だと信じていて、世に出すときに初めて現れてくる物だと考えます。例えば、森の中で、自身の喜びのために制作するのであれば必要ありません。が、それが街に出て作品として売買するとなれば、やはり法律に鑑みて検証することは必要なプロセスだと考えます(ただ、創造物が第三者に与える刺激、美しさなどは、そういったこととは無関係なのですが)。
サンプリングで素晴らしいアートを作る方を僕は沢山知っていますし、また引用を逆手に取った作品を見るとき、僕たちは、そこにユーモアを読み取ることもできます。

Q3. Bunさんはご自身の音楽の創作において、同時代や過去の音楽家との対話をどのように意識していますか?また、どのようにそうした「他者」を発見したり、遭遇したりしていますか?

Bun 過去の音源からは、沢山の新しい刺激を貰います。なぜなら、僕が持っていないものがそこにあるからです。一方的にそれらを聞いているのではなく、もちろんアナライズもします。時にはサンプリングして、加工して、新しいサウンドに生まれ変わることもあります。それ自体が過去の音楽家との対話のような作業かもしれません。
同時代のアーティストについて印象的な出来事は、昨年5月にLAのLow end Theoryというイベントでライブをした時にたくさんのアーティストが遊びにきてくれて、今まで音源でしか聞いていなかった人と実際に会えたことです。
日本に戻り、滞在中に知り合ったアーティスト達とコラボレーションを始めました。曲が完成すると、今度はメキシコのビデオアーティストが映像をつけて、あっという間にVimeoにUPされ公開されたんです(※)。ネットを使ったコミュニケーションの早さを実感しましたし、しがらみもなくおもしろいものが、かなりのスピード感で出来上がって皆さんの目に触れるような状態になる、というのは制作者側としては単純に気持ちよかったです。

※Arsonic Garcia の曲を僕がREMIXし、MIMというアーティストがビデオを制作しました。

asonic garcia – endless realm (bun / fumitake tamura remix) from mim on Vimeo.

もう1つ、AOKI takamasaさんと繋がったきっかけもネットでのコミュニケーションでした。僕はTumblrというサイト上で写真や音をUPしているのですが、もともとAOKIさんの音や写真が大好きで、ある時AOKIさんのTumblrをフォローしました。すると翌日の朝、見ず知らずの僕のTumblrを見てくれたようで、彼からすぐに連絡がありました。
このTumblrがコミュニケーションを取るきっかけとなり、今では一緒にツアーに行ったり、曲を作ったりしています。AOKIさんはネットがなければお会いするチャンスはなかったかもしれません。すごく幸運でした。

……次回に続く:「聴く対象は人間であることを強く感じて音楽をつくるのが大切」(5月29日公開)

Fumitake Tamura(Bun)

bun_photo_square

ザラついた音の質感を綿密に構成し、様々な音楽を横断していくアーティスト。
自身の作品はもとより、国内外のアーティストとの共作も多数手掛ける。
クリエイティビティーを高く掲げたレーベル "TAMURA" を設立し、常に挑戦的な作品のリリースを続けている。

Discography

2012年 アルバム「BIRD」を、坂本龍一のレーベル "commmons"より限定リリース。同アルバムが 米 Alpha pup Records より、ワールドワイドリリース。 2013年 最新アルバム「MINIMALISM」をロシアのレーベル"ritmo sportivo"よりリリース。

Live

2012年 SonarSound Tokyo 出演。
L.A, DublabでのLive、またL.Aの伝説的パーティー Low End Theoryへの出演。
2013年 香港でオーディオビジュアルアーティスト Kondo Tetsuと共演。
http://www.fumitaketamura.com

ドミニク・チェン

ドミニク・チェン

1981年、東京生まれ、フランス国籍。博士(学際情報学)。NPO法人コモンスフィア(旧クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)理事。株式会社ディヴィデュアル共同創業取締役。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)非常勤講師。インターネットにおける自由文化(フリーカルチャー)の構築を目指すクリエイティブ・コモンズの活動を継続しながら、ウェブサービスやスマートフォン用アプリの開発を行っている。著書に『オープン化する創造の時代ー著作権を拡張するクリエイティブ・コモンズの方法論』、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』がある。
Photo: Kenshu Shintsubo, 2013



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